「準委任契約とSESって同じこと?違うもの?」——多くの解説記事は「同じ」と一行で済ませがちですが、それでは経営者が契約書を作るとき、エンジニアが契約を見直すとき、肝心な判断ができません。本記事では準委任契約とSESの正しい階層関係を整理した上で、偽装請負と判断される厚労省の基準、そして2024〜2026年に出た最新の行政指針まで一気に解説します。SES企業の経営者・人事、SESエンジニア、フリーランスの方にとって、現場で使える判断基準を持ち帰っていただける構成です。
1. 準委任契約とSESの関係:階層構造で理解する
最初に押さえるべきは、準委任契約とSESは「同義」ではなく「包含関係」にあるという事実です。
1-1. 準委任契約の定義(民法656条)
準委任契約は民法656条で規定された契約類型で、「法律行為以外の事務の委託」を指します。委任契約(民法643条)が「弁護士に訴訟を委任する」など法律行為に限られるのに対し、準委任契約はそれ以外のあらゆる事務処理に適用される、非常に幅の広い概念です。
ポイントは2つあります。
- 受託者は仕事の完成を保証しない:善良な管理者の注意義務(善管注意義務)をもって事務を遂行すれば、結果に対する責任は問われません
- 指揮命令権は委託者に移らない:受託者は独立した立場で業務を行います
この性質は後述する偽装請負の議論で何度も登場するので、頭に入れておいてください。
1-2. SESは準委任契約の「IT領域実装形態」
SES(System Engineering Service)は契約形態の名称ではなく、ITエンジニアの技術提供サービスを表す業界用語です。法律上、その契約根拠として準委任契約が使われているため、「SES契約=準委任契約」と説明されることが多いのです。
整理すると以下の階層になります。
準委任契約(民法656条)
├─ 経営コンサルティング契約
├─ 顧問契約(会計士・社労士など)
├─ 業務委託契約(一般事務)
└─ SES契約(ITエンジニアの技術提供) ← ここ
つまり「準委任契約」は民法の用語、「SES」はビジネス上の呼称であり、レイヤーが違います。実際の契約書は「準委任契約書」「業務委託契約書(準委任型)」といったタイトルになり、その中の業務範囲としてSESに該当する内容が記載される、というのが正しい構造です。
1-3. 「成果完成型」と「履行割合型」の違い(SESは原則・履行割合型)
民法改正(2020年4月施行)により、準委任契約は2類型に分けられました。
| 類型 | 報酬発生条件 | SESでの該当 |
|---|---|---|
| 履行割合型 | 業務の遂行(時間・工数)に応じて発生 | ◎ 一般的 |
| 成果完成型 | 成果物の納品により発生 | △ レアケース |
SES契約はほぼ例外なく履行割合型です。エンジニアは月160時間など「投下した工数」に対して報酬を受け取り、成果物の完成義務は負いません。これが「人月ビジネス」と呼ばれる所以であり、後述する指揮命令権の所在にも直結する性質です。
2. 準委任契約・請負契約・派遣契約の決定的な3つの違い
実務でSESを発注・受注するとき、混同しがちなのが請負契約と労働者派遣契約です。3者の違いを表で整理し、続けて3つの決定的相違点を解説します。
2-1. 比較表で見る3契約形態
| 項目 | 準委任(SES) | 請負 | 労働者派遣 |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | 民法656条 | 民法632条 | 労働者派遣法 |
| 報酬の対象 | 業務遂行(工数) | 成果物 | 業務遂行(工数) |
| 成果物責任 | なし | あり(瑕疵担保) | なし |
| 指揮命令権 | 受注者側 | 受注者側 | 発注者側(派遣先) |
| 雇用関係 | 受注者の会社と | 受注者の会社と | 派遣元と |
| 必要な許可 | 不要 | 不要 | 労働者派遣事業許可 |
2-2. 違い①:指揮命令権の所在
最大の論点は指揮命令権がどちら側にあるかです。
- 準委任(SES)/請負:受注者の会社(SES企業)が、自社のエンジニアを指揮します。発注者(クライアント)は直接エンジニアに指示できません
- 派遣:派遣先企業(発注者)が、派遣されたエンジニアを直接指揮命令します
ここを誤って運用すると、後述する偽装請負として違法状態になります。
2-3. 違い②:成果物責任の有無
- 準委任(SES):成果物の完成義務なし。善管注意義務を果たせば報酬請求可能
- 請負:成果物の完成が報酬の条件。瑕疵があれば修補・損害賠償の責任あり
- 派遣:そもそも成果物概念は契約に含まれない
SES案件で「機能が動かないから報酬を払わない」というのは、契約形態を取り違えた要求です。動作保証を求めたいなら、契約形態自体を請負に切り替える必要があります。
2-4. 違い③:雇用関係の有無
- 準委任・請負:エンジニアは受注者の会社(SES企業)と雇用関係
- 派遣:エンジニアは派遣元(派遣会社)と雇用関係、就労場所は派遣先
SESの場合、エンジニアの労務管理(勤怠管理、賃金、社会保険、安全配慮義務)はすべてSES企業側の責任です。クライアント側が勝手に残業を命じる、休暇を制限するといった行為は契約形態の逸脱になります。
3. 偽装請負と判断される基準:厚労省37号告示を読み解く
SES契約で最も注意すべきリスクが偽装請負です。形式上は準委任契約を結んでいながら、実態として派遣のように発注者が直接指揮命令している状態を指します。
3-1. 37号告示の2要件
厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、通称「37号告示」)は、適法な請負(準委任を含む)と認められるための条件を定めています。
要件は大きく2つに分かれます。
① 自己の雇用する労働者の労働力を、自ら直接利用するものであること
- 業務の遂行方法に関する指示は受注者が行う
- 労働時間管理は受注者が行う
- 服務規律・配置決定も受注者が行う
② 請負契約により請け負った業務を、自己の業務として、契約の相手方から独立して処理するものであること
- 業務処理に必要な資金は自己責任で調達
- 法律上の事業主としての責任を負う
- 自ら提供する機械・設備・資材で処理する、または専門的な技術・経験で処理する
要件のうちどれか1つでも欠ければ偽装請負と判断される可能性があります。
3-2. 違反するとどうなるか(事業者・労働者双方のリスク)
偽装請負が認定された場合、関係者全員に深刻な影響が及びます。
| 立場 | 想定リスク |
|---|---|
| 発注者(クライアント企業) | 労働者派遣法違反(無許可派遣の受け入れ)/是正指導・企業名公表/労働契約申込みみなし制度の対象(最大3年遡及で直接雇用義務) |
| 受注者(SES企業) | 労働者派遣法違反(無許可派遣)/許可取消/刑事罰(1年以下の懲役または100万円以下の罰金) |
| エンジニア本人 | 労災・労働条件で曖昧な責任所在/キャリア上の不利益 |
特に発注側が知らないでは済まされない点に注意が必要です。
3-3. 実務でやりがちなNGパターン3例
現場で「これくらいなら大丈夫だろう」とやりがちなNG行為を挙げます。
- 発注者がエンジニアに直接タスクを割り振る
- 例:朝会で発注側PMが「今日はAさんはこの画面、Bさんはこの修正をお願い」と振る → 指揮命令にあたる - 正:受注者側のリーダーが取りまとめ、その結果を発注者側に共有する
- 発注者の社員と完全に同じ勤務時間・休暇制度を適用する
- 例:発注先のフレックスタイム、有給申請ルールに従わせる → 労務管理が発注側になる - 正:受注者側の就業規則・勤怠ルールで運用する
- 発注者がエンジニア個人を指名・拒否する
- 例:「Aさんは契約継続、Bさんは外してほしい」と発注者が個別判断 → 指揮命令の延長 - 正:必要なスキル要件を伝え、人選は受注者側に委ねる
4. 【2024〜2026年の最新動向】アジャイル新基準とIPAモデル契約
37号告示は1986年に制定された古い基準ですが、近年のアジャイル開発・クラウドネイティブ開発の現場とは前提が合わない場面が増えてきました。これを受けて、行政側からも新しい指針が出ています。
4-1. 厚労省「疑義応答集 第3集」が示すアジャイル時代の判断
2021年9月、厚労省は37号告示の疑義応答集 第3集を公表(業界では「8年ぶりのSES新基準」と呼ばれています)。アジャイル開発のように発注者と受注者が密にコミュニケーションを取りながら進める開発形態でも、対等な関係下での協働である限り、直ちに偽装請負とはしないという方向を明確にしました。
具体的には、以下の論点が整理されています。
- 対面・チャットでの直接の情報共有:内容が指揮命令や労務管理でなければOK
- スキルシートの提出:個人の指名・特定者の就業拒否につながらなければOK
- 打ち合わせへの直接参加:意見交換が目的で、指示伝達が目的でなければOK
ただし、その内容が指揮命令や労務管理に踏み込めば違反になる点は変わりません。「やり方の問題」ではなく「実態の問題」なのです。
4-2. IPAアジャイル開発外部委託モデル契約(2024.7更新)の位置づけ
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)は2020年に「アジャイル開発版モデル契約」を公開し、その後2024年7月19日に大幅更新を行いました。さらに2025年4月8日には国際仲裁条項を追記するなど、継続的にメンテナンスされています。
このモデル契約は法的拘束力こそありませんが、「準委任契約として適法にアジャイル開発を回す」ためのテンプレートとして実務上の標準になりつつあります。SES企業・発注者ともに、自社の契約書を見直す際の参照基準として活用すべきです。
4-3. 直接情報共有・スキルシート提出は即NGではない
上記から導かれる実務上の結論はシンプルです。
- ✅ 直接情報共有は問題なし——内容が指揮命令でなければ
- ✅ スキルシート提出も問題なし——発注者が個人を指名・選別しなければ
- ✅ アジャイルでの密な対話も問題なし——対等な協働の枠内であれば
逆に言えば、契約形態を準委任にしておけば形式が整う、というのは誤解です。日々の運用実態が問われます。
5. 経営者・人事が押さえる準委任契約運用の実務ポイント
ここからは立場別の実務指針です。まずSES企業や受発注を行う企業の経営者・人事担当者向けです。
5-1. 契約書に必ず明記すべき5項目
準委任契約書に最低限盛り込むべき条項を挙げます。
- 業務の内容と範囲——抽象的な「システム開発支援」ではなく、対象システム・工程・成果物(あれば)を特定
- 善管注意義務の範囲——どこまでの注意義務を負うか
- 指揮命令系統の明示——指揮命令は受注者側のリーダーが行う旨
- 報酬の計算方法——時間単価・月額・精算幅(例:140〜180時間レンジ)
- 再委託の可否と条件——プロジェクト途中での要員交代の手続
5-2. 指揮命令にあたる発言・行為を社内教育
特に発注者側の現場リーダーやPMには、「自社社員と同じ感覚で指示しないこと」を徹底する必要があります。NG事例を社内研修で具体的に共有し、コミュニケーションは受注者側のリーダー経由でルーティングする運用を作りましょう。
5-3. 工数管理を「報告ベース」で運用する
発注者が直接エンジニアの勤怠を管理すると派遣的になります。代わりに受注者側が工数報告を提出し、発注者が「結果として」確認する運用が望ましい形です。タイムカードの共用、発注者システムへの直接打刻は避けましょう。
6. エンジニア・フリーランスが知っておくべき守るべきライン
最後にエンジニア・フリーランス側の視点です。SES案件で働く以上、自身でもラインを把握しておくことが身を守ります。
6-1. 「直接指示を受けたら違法」は本当か
厚労省の疑義応答集が明確化したとおり、情報共有や技術的相談を直接受けること自体は問題ありません。問題は「やる・やらないを命令される」レベルの指示を受けたかどうかです。違いを以下の質問で判断してください。
- NG:「明日までにこの機能を実装してください」(タスク命令)
- NG:「今日は残業して仕上げてください」(労務指示)
- OK:「この部分の仕様を共有させてください」(情報共有)
- OK:「技術的にどう実装するか相談に乗ってもらえますか」(相談)
6-2. 業務範囲外の指示を受けたときの対処
契約書に記載の業務範囲を超える依頼を受けたら、その場で安請け合いせず、所属するSES企業のリーダーに相談しましょう。範囲外の業務を続けていると、いつの間にか「発注者の業務の一部を担う」状態になり、偽装請負リスクが高まります。
6-3. 単価交渉・契約更新で確認すべき条項
契約更新のタイミングは、契約書を見直す絶好の機会です。
- 業務範囲が現状と乖離していないか
- 想定工数(例:140〜180時間)が実態と合っているか
- 単価が市場相場と乖離していないか
単価相場の判断基準については別記事「SES単価の相場|経験年数・スキル別の目安と判断基準」で詳しく解説しています。
まとめ:準委任契約とSESの違いを「実務に効く」レベルで使いこなす
本記事の要点を3つに整理します。
- 準委任契約はSESを包含する広い概念——「同じ」ではなく「準委任⊃SES」の階層関係
- 偽装請負は厚労省37号告示の2要件で判断——契約形態の名称ではなく、指揮命令・労務管理の実態が問われる
- 2024〜2026年の新動向——アジャイル開発に対応した疑義応答集とIPAモデル契約が、密なコミュニケーションを前提とした適法運用の道を開いた
法律論として正しく理解した上で、現場の運用に落とし込むことが企業にもエンジニアにも求められます。
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